2021.10.04
『繊研新聞』に当社のことが掲載されました。(R3.10.4)
お取引様各位
令和3年10月1日付、業界紙『繊研新聞』にて、当社のことが掲載されました。
【パーソン】マスダ代表取締役社長 片岡大輔さん
問屋業の使命全うし過剰供給解消
合繊を中心に生地と製品で定番在庫を持ち、衣料や雑貨、資材など多種多様な分野に卸売りを行うマスダ。世の中が合繊素材に期待する“最大公約数”を定番として商品化。この定番在庫を地域や業種で区分けせずに、営業員がきめ細かくフォローする体制をとってきた。顧客の求める最適な商品を最適な時に最適な形で販売を行う問屋・コンバーター、すわなち“生地屋”本来の役割が評価され、コロナ禍の厳しい市場環境下でも安定した業績推移となっている。
製造と店頭のズレを埋める
――昨年春にはいち早くマスク需要増加に対応した。
不織布マスクが不足し、布製マスクの需要が生まれるのでは、といった話題が社内で最初に出たのは昨年の2月中旬でした。当時は価格の適合性も含めて半信半疑でしたが、全営業が意識して情報収集と販促に動いてくれました。その結果、当社の定番素材の中でマスク用途に使用できる機能性ニット素材に注目が集まり、衣料向けの受注減を補うことができました。
もっとも、当社にとっては、そういった一連の動きは特別なものではなく日常の自然なものであったと考えています。というのも、我々問屋業は、製造と店頭をつなぐ中間流通を担う存在です。我々に課せられた使命は、製造と店頭の間に生まれるロット、時間あるいはニーズなどのズレを埋める役目だと認識しています。昨年の場合は、布製マスクの後も、撥水(はっすい)素材を利用した医療用ガウンやレジ袋の有料化に伴うエコバッグ需要が生まれました。
いずれも昨年ならではのニーズであり、世の中にそれに見合う素材が十分用意されていませんでした。こうした需要の変化に素早く対応して、適した素材を抽出し、仕入れ・販売体制を整える。まさに問屋業の使命を全うできた1年でした。
こうした動きは、平時であっても非常時であっても変わらず我々が追求していくべき当社の原点だと考えています。
――定番在庫を全国の営業員が販売する事業の仕組みだ。
当社は衣服にとどまらず、人間の生活に繊維の存在は欠かすことができないものと考えています。だからこそ、我々は「全国の顧客に寄り添い、悩みを正確に把握し、その時点で対応可能な最適素材を提案し、繊維の力で悩みを解消していくこと」を目指しています。
人間が生活するうえで必要とする繊維の種類や用途は、時代の変化に応じて移り変わっていきます。その変化を敏感に察知するには、営業の存在は欠かせません。デジタル化の流れを軽視するつもりはありませんが、顧客の皆さまに「近くにマスダさんがいてくれて良かった」と思ってもらえる存在で居続けたいと考えています。
そのため、人材教育には特に力を入れています。
――定番を扱う理由は。
当社には172品番の「生地定番」とともに、ベーシックなTシャツやポロシャツなどを在庫し、1枚から販売する「製品定番」が116品番あります。生地定番は仕組みを構築してからまもなく50年を迎えようとしており、製品定番もまた30年が経過しています。そのいずれにおいても初期から今も販売を継続しているロングセラー商品がいくつもあります。このように時代を超えて愛され、必要とされる商品こそが真の“定番”なのだと考えています。
長い時間変わらず同じ商品を販売し続けていくことは、サスティナビリティー(持続可能性)の重要性が高まるこれからの時代にもマッチするものであり、“MOTTAINAI(もったいない)”や“KANBAN(看板)”などとともに“TEIBAN(定番)”として世界に発信していける考え方だと信じています。
当社の定番販売システムの根底には、「作るだけ作って簡単に廃棄することは人間のエゴである。無駄なものを作ることを極小化していこう」という発想があります。これは現在のSDGs(持続可能な開発目標)の考えが生まれるはるかに前から我が社に脈々と流れる伝統的な考え方であり、それを具現化した仕組みが定番販売システムなのです。
最近はリサイクル原料などによって環境配慮を行う動きが主流であり、当社もそういった新規企画や商品の置き換えは検討していきます。しかし貴重な地球資源を使わせていただく以上は、無駄をできるだけなくしていこうという発想は常に持ち続けています。
国内生産堅持で定番を支える
――国産にもこだわる。
定番販売システムというのは、同じ商品を常時在庫し、それを使っていただいたユーザーの企画がうまくいった場合には、再度同じものを必要なだけ追加購入していただこうとする仕組み。だからこそ定番では、追加で買うものが以前購入したものと同じものであるという安心感こそが大切になります。
繊維は、機械に原料を入れたからといって同じものが自動でできあがってくるものではありません。それが難しさでもあり面白さでもあるのですが、その世界で品質を安定させて作ることができるのは、日本人の緻密(ちみつ)で真面目な国民性によって可能になる部分だと思っています。
また、繊維業界は「衣・食・住」と言われる人間の生活に欠かすことのできない分野を担う一つです。だからこそ、日本国内に産業として残していくために我々がどう貢献できるのかという思いがベースになっています。生地定番の9割が生機作りから染色加工まで日本国内で行う純日本製ですし、製品定番においてもあくまで日本製を基軸として展開しています。
――製品の扱いが増えている。
当社はお客さまに“生地屋”としては認知していただいていますが、実は無地ボディーの在庫販売というビジネスモデルにおいても製品定番は先駆的でありました。生地定番にも製品定番にも共通するものは、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」購入していただくという考えです。そして、製品定番には当社が生地を扱うだけでなく、良質な製品化まで対応出来ることを認知していただき、皆様に当社の機能を必要なだけ目一杯活用していただきたいというメッセージも含んでいます。
全体売り上げに占める製品の売り上げ比率が35%まで増えた時期もありましたが、直近は10~13%です。当社はあくまでも生地屋であり、生地販売が基本なので、当社の持つ製品化までの機能や役割が世の中でどこまで求められるかによって製品での売り上げ比率は上下します。この数年で製品の扱いが増えている理由は、海外縫製の安価な物作り一辺倒に限界が生じ、新たな物作りの流れが生まれる予兆ではないかと見ています。
――社内に縫製設備を設けた。
縫製設備を設けたというにはおこがましい程の投資ですが、当社が未来に向けてどのような役割を果たしていくことができるかを模索するための投資です。また、“生地屋”に求められること、つまり顧客心理を理解するための社員教育ツールとしての意味合いもあります。
90年代から00年代にかけて安い人件費を活用した海外縫製品が圧倒的主流となり、日本国内の縫製設備は絶滅の危機に瀕(ひん)しています。しかし、当社は、製品定番において日本製商品をずっと堅持し続けたので、今でも縫製背景を数多く残しています。蛇足ながら昨年のコロナ禍では、こういった国内縫製背景を活用し、医療用ガウンの国内縫製にも対応できました。
私は今の衣料品市場の過剰供給を解消する答えは最終的には地産地消、つまり国内縫製にあるのではないかと考えています。「売れるものを売れるだけ作る」あるいは、「売れた分だけ作ろう」とする時に国内縫製が最も適しています。その際に、当社が生地屋として、あるいは中間流通業者としてどのような機能を持つことが世の役に立つのかを常に模索しています。今では数少なくなってしまった国内縫製業者の方々の気持ちを知る為には、当社の営業の身近にミシンがあり、その扱いの難しさを少しでも実感することが大切だと感じたからこその投資です。
――今後の方針は。
合繊素材の取り扱いを主とする当社は、北陸産地を中心に全国の色々な仕入先、顧客とともに生きています。
産地、生産現場の方々へ貢献を続けていきたいと願っていますが、当社の力だけではやれることは限られています。また、業界の中で我々だけが生き残ったとしても何も意味はありません。繊維が人間の生活をよりよくするため、生地屋として何ができるのか。世の中に対して、当社がどのような役割を担うことができるのかについて知恵と力を注ぎながら前進していきたいと思っています。
記者メモ
繊維製品は繊維原料を糸にして、それから生地、縫製を経て製品が作られる。繊維原料から糸、生地までの生産期間は1年以上と長く、それぞれ生産数量と取引単位が異なる。一貫生産は膨大な資金とノウハウが必要で合理的ではない。また流行があるファッション衣料ではなおさらだ。そこで繊維製造の各段階に専門企業が分布し、製造と中間在庫の調整が行われている。
問屋・生地コンバーターは生産と店頭の間に存在し、在庫と必要量の供給を行う中間流通業態だ。コロナ禍で短納期小ロット対応が生地で求められるようになり、適切な量を供給する問屋・生地コンバーターの存在が改めて注目されている。さらに同社の営業員が全国の顧客をくまなく回り、必要とされる量を販売する。この最適な流通回路の必要性が認められたところに、堅調な業績推移の背景が見える。
(浅岡達夫)
繊研新聞 2021年10月1日付 8面より転載
繊研プラス:https://senken.co.jp/